院長あいさつ
熊本赤十字病院長
平田 稔彦
- 社会に選ばれる、
- 地域に選ばれる、
- 職員に選ばれる、
そして時代に選ばれる
病院を目指して
日本赤十字社の前身である「博愛者」は、明治10年(1877年)田原坂の戦いで知られる西南の役の戦火の中で産声を上げ、敵味方の区別なく負傷した兵士の救護を行いました。このことから、熊本は「日本赤十字社発祥の地」と言われています。
当院は昭和19年(1944年)の開設以降、「人道」という赤十字の使命のもと、一貫して救急医療、国内外の災害救護活動に取り組んで参りました。この精神は代々引き継がれ、「人道・博愛・奉仕の実践」という基本理念と「救急医療」「高度医療」「人材育成」「地域連携」「医療救援」「魅力創出」の6つの基本方針のもとに、高度急性期医療を担う総合病院として、国内外を問わず様々な活動を行っています。
「わたしたちは、苦しんでいる人を救いたいという思いを結集し、いかなる状況下でも、人間の命と健康、尊厳を守ります。」という日本赤十字社の使命を果たすために、これからも努めて参ります。
この問題に対処するためには、医療機関の機能から見た統合・再編が促進され、介護施設を含めた連携がさらに強化されるものと思われます。更に頻発する自然災害を始め、新興/再興感染症、サイバー攻撃などに対応する危機管理対策も欠かせません。
約4年に渡って猛威を振るったコロナ禍は、私たちの生活様式まで一変させました。自分の価値観に合わせた生き方が徐々に浸透し、マンパワーからAIパワーへシフトしていくなど、診療体制の変化にも拍車がかかっています。
このように時代が大きく変わっていく中、2040年を見据えて、当院はいかにあるべきでしょうか。この点に関しては、「目指す方針は変わらないが、変化に応じて変わらなくてはならない」と考えています。
つまり、当院の基本的な方針である「理念に則り、救急医療、高度医療、災害医療を中心に高度急性期医療を担う地域の基幹型総合病院を目指す」という、これまでの立ち位置に変わることはありません。
しかし、2040年にかけて顕在化していく働き手不足、疾病構造の変化、高齢者救急の増加、AIの台頭、働き方改革などの時代の変化には、適切に対応していかなくてはなりません。
これからも、変わらないところ、変えるべきところをしっかりと見極め、職員が一つになって「選ばれる病院」を目指していきたいと考えています。
基本方針から見た主な活動
#01救急医療
昭和55年(1980年)に、熊本県で最初の救命救急センターの指定を受けて以降、救急医療の拠点として、お年寄りから子供まで、24時間365日体制で、あらゆる疾患に対応しています。「断らない救急」をモットーに、救命救急センターでは年間約5万人の救急患者を受け入れ、救急車やドクターヘリで搬送される件数は7,500件を超えています。
平成24年(2012年)には、ドクターヘリの運航開始に伴い基地病院に指定され、総合救命救急センターとこども医療センターを開設、救急医療のさらなる充実、レベルアップを図りました。
翌平成25年(2013年)には西日本で最初となる小児救命救急センターの指定を受け、ドクターヘリ基地と小児救命救急センターを兼ね備えた全国初の施設として、高度救急医療を実践しています。
平成27年(2015年)には外傷外科部を設置、以降重症外傷患者が増加しました。
令和2年(2020年)には重傷外傷センター、熱傷センターなどをグレードアップし、高度で専門的な救急医療提供体制を構築しました。
今後も救命救急センターのさらなる充実を図り、県内外の救急疾患に対応して行きたいと考えています。
#02高度医療
平成20年(2008年)に「地域がん診療連携拠点病院」に指定されました。
がん相談支援センターを設置し、地域におけるがん診療の連携・支援を推進しています。がん医療水準の向上を目指すと共に、緩和ケア支援チームによるカウンセリングなど、がん医療に関する相談支援や情報提供等にも取り組んでいます。
これに先立ち、平成19年(2007年)には、メタボリックシンドロームや生活習慣病などが引き起こす全身の「血管病」を診療科の枠を超えて総合的、包括的に診断・治療を行う総合血管センターを開設しました。脳卒中、心筋梗塞等の心血管疾患に対する脳血管内治療、PCI(冠動脈インターベンション)も積極的に行い、治療件数も増加傾向にあります。
令和2年(2020年)、SCU(Stroke Care Unit:脳卒中集中治療室)に続いて「脳血管内治療センター」を新設しました、脳卒中専門医を中心に多職種で構成された専門チームが、急性期からリハビリまで集中的に治療する体制作りを行っています。
また、大動脈弁狭窄症に対する最新治療法:TAVI(経カテーテル大動脈弁置換術)を開始しました。これにより、高齢などの理由で手術を諦めていた患者さんもより安全に治療できるようになりました。
その他、より質の高い医療を提供するために多職種のメンバーが連携し、医療安全(MRM)、感染対策(ICT)、褥瘡対策、栄養サポート(NST)、摂食・嚥下、呼吸ケア(RST)、緩和ケア(PCST)、がんリハビリテーション、認知症サポートチーム(DST)など様々なチーム医療を行っています。
昭和63年(1988年)から開始した腎移植は、令和5年(2023年)に400例に達し、平成8年(2010年)以降は、生体移植の1年生着率99%、5年生着率97%と良好な成績を収めています。腎移植チームは、外科、総合内科、腎臓内科、泌尿器科、産婦人科、麻酔科などの複数の診療科と移植コーディネーターを中心に、薬剤師、看護師、管理栄養士、臨床検査技師、臨床工学技士、事務職員などで構成され、チーム間で密接に情報共有を行いながら、毎月2~3例の腎移植を実施しています。
#03人材育成
平成8年(1996年)に臨床研修指定病院に指定されて以来、救急医療と総合診療を基軸に、幅広い疾患に対応できる医師を養成すべく、研修医の育成に取り組んでいます。また平成24年(2012年)にNPO法人卒後臨床研修評価機構による臨床研修評価認定(認定期間4年)を取得、さらに平成28年(2016年)、令和5年(2022年)には更新認定を取得しました。
また同年(令和5年)新たに、臨床研修の基本理念を「目の前の患者から逃げない医師を育成する」、基本方針を「対応できる医師」「信頼される医師」「協力できる医師」と定め、患者に求められ、信頼される医師の養成に努めています。
看護師に対しては、日本赤十字社の「キャリア開発ラダー」に基づき、ラダー制を導入しています。各個人が将来の目標を持ちキャリア開発に取り組み、仕事の満足を得られるような研修内容となっています。
また、近年は、看護職の地域連携にも力を入れています。当院では患者・ご家族・国内外の方のための医療・看護・保健指導のできる看護師の育成を目指しています。
#04地域連携
平成22年(2010年)に、専門医療の提供、専用病床や医療、設備の共同利用、医療従事者の研修等を通じて、地域の医療機関を支援する「地域医療支援病院」に承認されました。地域の高度急性期病院として「地域完結型医療」に貢献できるように、紹介連携システムを活用した紹介状・返書の管理、「地域医療連携の会」「市民公開講座」「講演会」等の開催、総合情報誌「Dr.CROSS」の発刊など様々な活動を行っています。
平成27年(2015年)4月から開始しました「くまもとクロスネット」(情報通信技術ICTを利用した地域医療連携)も多くの先生方に利用され、好評を博しています。今後さらなる内容の充実を図りたいと考えております。
#05医療救援
熊本県の基幹災害拠点病院である当院は、これまでに国内のみならず海外へも医師、看護師、技師等を派遣し、被災者・被災地の救護救援活動を行ってきました。被災した多くの傷病者を受け入れ、また積極的に被災地に駆けつけ医療活動を行ってきました。これからもその方針に変わることはありません。
平成28年(2016年)4月の熊本地震では、震源に最も近い災害拠点病院として、自らが被害を受けながらも被災者を受け入れ、院外においても救援活動を行いました。
令和2年(2020年)7月に人吉・球磨地方を襲った豪雨災害では、約2か月間にわたり救護班、医療コーディネートチーム、さらに心のケア・保健師支援チームを派遣しました。
令和6年(2024年)元日に発生した能登半島地震では、日赤本社、日赤九州ブロックそして日赤熊本で協働して支援活動を行いました。
国際医療救援は1980年から行っており、これまでに様々な国や地域に、延べ300人近い職員を派遣してきました。
私たちは、これらの経験を生かすとともに、熊本地震の記憶を決して風化させることなく、今後に備えていかなくてはなりません。
#06魅力創出
患者さんにぬくもりのある医療を提供するためには、職員一人ひとりの満足度を高めることが必要です。そのためにも、気持ちよく安心・安全に働くことのできる職場環境作りは欠かせません。
子育て支援、介護支援などワークライフバランスに配慮した取り組みのほか、スキルアップのための学術的支援、医療業務に専念できるような仕事の効率化などを通じて、多くの医療職の方に選ばれるような、魅力ある病院作りに取り組んでまいります。
「人」を大切にし、多くの優秀な人材が集い、患者さんに満足いただける医療が提供できるよう努めていきたいと考えております。