臨床研究に関する情報公開
- 受付番号
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706
- 研究課題名
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くも膜下出血後のグリンパティックシステム障害と臨床予後の関連:予後因子および治療経過の影響解析
- 当院研究責任者
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岳元 裕臣
- 研究分担診療科
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脳神経外科
- 研究機関名
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熊本赤十字病院
- 研究期間
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2025年7月3日~2026年12月31日
- 研究目的と意義
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くも膜下出血は脳卒中の中でも最も予後不良であり、とくに高齢になるほどその傾向が顕著です。脳血管疾患はわが国において死亡原因の第4位、要介護の原因疾患としては第2位を占めており、少子高齢社会を迎えた現在、くも膜下出血は重要な課題です。
くも膜下出血の予後を左右する要因の一つに、出血した血液が脳内のさまざまな部位を占拠し、血液と脳脊髄液(以下、髄液)の産生・吸収バランスやその流れを阻害してしまうことが挙げられます。これまでの治療では、マクロレベルで血腫を除去したり、血液–髄液循環を改善する目的でさまざまな手術が行われ、一定の成果をあげてきました。しかし、それにもかかわらず、過去20年間にわたって我が国のくも膜下出血の予後は大きく改善していないのが現状です。
近年、血液–髄液循環障害をよりミクロの視点からとらえるメカニズムとして、「グリンパティックシステム」が注目されています。グリンパティックシステムとは、脳内で髄液と間質液(脳実質内の液体)を交換・排除するネットワークのことで、主に脳毛細血管に沿って分布するアクアポリン‐4(AQP4)を介して機能します。具体的には、髄液がAQP4を通じて脳実質に流入し、老廃物や代謝産物を含む間質液を静脈系へ排出することで、効率的に不要物を除去し、神経機能の恒常性維持に寄与しています。
しかし、くも膜下出血後には、このグリンパティックシステムがさまざまな要因で障害を受けます。まず、血腫によって物理的に排出経路が閉塞されるだけでなく、AQP4自体の機能異常も引き起こされます。その結果、脳浮腫が増悪し、炎症産物などの神経毒性物質の排出が遅延します。これらの老廃物や毒物が脳内に蓄積すると、最終的には機能予後を悪化させる可能性が指摘されています。ただし、これまでの報告は主に動物実験レベルにとどまっており、ヒトを対象とした研究はほとんどありません。また、グリンパティックシステム障害を標的とした治療法も、現在のところ実臨床には存在していません。
そこで本研究では、くも膜下出血後におけるグリンパティックシステム障害が、予後や治療経過にどのように影響するのかを解析します。具体的には、発症後のグリンパティック機能の変化を長期的に追跡し、その影響を明らかにすることで、新たな治療ターゲットを検討することを目的としています。最終的には、くも膜下出血患者さん全体の予後改善に寄与する基盤を築くことを期待しています。
- 研究方法
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●対象となる方
当院にて入院・加療を行った未破裂脳動脈瘤、及び、くも膜下出血の患者さんを対象とします。ただし、外傷性のくも膜下出血の患者さんは除外します。
●方法
2021年1月1日から2025年12月31日まで(研究承認日以降は前向き登録)に当院に入院した対象となる患者さんを全例登録します。登録された患者さんの入院中から退院半年後までのMRI 画像を用いて、グリンパティックシステムを反映すると報告される拡張した血管周囲腔(ePVS)の個数をカウントします。ePVSの評価方法は国際的な画像診断基準である、STRIVE: Standards for Reporting Vascular Changes on Neuroimagingに準じて評価します。
一方で、下記観察項目を診療録より取得し、上記の結果と併せて検討します。なお、患者さんに関する全ての項目はいずれも通常の診療で得られる項目のため、追加の検査・治療等は必要としません。
●利用するカルテ情報
1 疫学:発症日、年齢、性別
2 重症度:Glasgow Outcome Scale:GCS、World Federation of Neurosurgical Societies grade:WFNS grade、Hunt and Kosnik grade:H&K grade
3 血腫量:Fisher group
4 動脈瘤:出血源(検索の有無、原因)、破裂部位(左右、部位)、形状、大きさ、血腫形成の有無、急性水頭症の有無
5 治療:治療方法(coil/clip/その他、ステント使用の有無、治療日、脳室/腰椎ドレナージの有無)、Delayed Cerebral Ischemia:DCI(スパズム)(薬物療法、追加薬)
6 検査・画像所見:MRI 画像(入院中から退院後半年後まで)、血液所見(赤血球数、白血球数・分画、AST、ALT、総蛋白、アルブミン、総ビリルビン、クレアチニン、尿素、Na、K、Ca、Cl、CRP)
7 合併症:転帰に影響した合併症、水頭症(シャント手術の有無)、症候性スパズム(発症の有無)
8 予後:modified Rankin Scale:mRS(発症前、退院時、3ヶ月後)
●他機関へ提供する方法
他機関へ患者さんの情報を提供することはありません。