脳神経外科Neurosurgery
熊本赤十字病院は救命救急センターを併設し、県の基幹災害拠点病院としての役割も担っていますので、頭部外傷や脳血管障害等の救急患者の頻度が高くなっています。頭部外傷は重症多発外傷症例が多く、外科・外傷外科・整形外科・眼科・耳鼻咽喉科その他の関連科との連携を密にして治療成績の向上に努めています。 また日本赤十字社熊本健康管理センターで脳ドックを施行しており、無症候性の脳腫瘍や脳動脈瘤の予防的手術も増加傾向にあります。熊本県の脳卒中医療の拠点となるべく、脳神経外科や脳神経内科などの診療部と、看護師やメディカルスタッフなど専門性の高いスタッフを集めたチームを結成し、総合的かつより専門的な脳卒中治療を提供するため「脳卒中センター」を設置しています。 また、令和2年4月から「脳卒中集中治療室(SCU: Stroke care unit)」、同年11月から「脳血管内理療センター」を開設し、脳卒中に対するさらなる高度医療が可能となりました。

低侵襲手術
脳や神経、脳血管に対する手術の影響を少なくするためにカテーテルを使った脳動脈瘤塞栓術、内視鏡を用いた脳内血腫の除去手術を行っています。
小児脳神経外科救急医療
小児集中治療室(PICU: Pediatric Intensive Care Unit)において、小児科と連携し、小児の脳血管障害、重症頭部外傷に対しても積極的に取り組みます。
重症頭部外傷
全国頭部外傷データバンクの登録施設であり、多くの重症頭部外傷、多発外傷患者を受け入れてきました。救命救急センターが充実し、救急医、集中治療、外傷外科医と連携し診療を行います。緊急を要する場合、救急外来で穿頭手術が可能です。
主な疾患・治療法


症状
くも膜下出血は致死率と後遺症率の非常に高い難治性の疾患です。前触れがない場合が多く、突然今まで経験した ことのない頭痛や嘔吐、意識消失などで発症します。時には「風邪」を引いた時の様な頭重感を訴える方もいます。
検査
頭部CT、3DCT血管造影、MRI、脳血管造影。
治療
原因は脳動脈瘤破裂がほとんどです。この脳動脈瘤の再破裂防止が治療の主眼となります。開頭クリッピング術や
血管内治療がありますが、当院では根治可能な開頭術を第一選択としています。しかし、年齢、重症度、動脈瘤の
形状・部位などで血管内治療による動脈瘤コイル塞栓術を施行することもあります。可能な限り手術を行って救命
することを行いますが、重症例では手術ができずに、または手術を行っても亡くなる方が約30%程度います。手術後
は脳血管攣縮による合併症が起こりますが、脳血管攣縮が発症しないように内服や点滴で治療を行なっています。
症状
無症状のことがほとんどで、脳ドッグやMRIの普及によって未破裂脳動脈瘤が見つかりやすくなってきました。 未破裂脳動脈瘤は将来破裂する危険性があり、破裂すると上記「くも膜下出血」になりますので、破裂前に破裂予防 の手術を行うことがあります。
検査
3DCT血管造影、MRI、脳血管造影。
治療
前述の「くも膜下出血」と同様に脳動脈瘤に対する根治術である開頭クリッピング術や血管内治療を行います。
症状
脳内部の細小動脈が破れて出血し、脳の中に血腫(血のかたまり)ができる状態です。高血圧が主な原因となります。 脳動静脈奇形や硬膜動静脈瘻など異常血管が破れたりやアミロイド血管炎によっても起こったりします。症状は出血 の部位により多種多様ですが、意識障害や片麻痺、失語症などが認められます。
検査
頭部CT、MRI。
治療
治療には全身管理と血圧の管理をまず厳重に行い、症状、生命予後、機能予後、年齢、血腫量などを考慮して手術
適応を決定します。主な手術方法は開頭血腫除去術で、多量の脳内血腫に対して頭を開けて血腫を除去した方が経過
が良い、または除去しなければ生命に危険が及ぶなどの場合に迅速に行います。以前は顕微鏡下に手術を行っていま
したが、最近では小さな開頭で内視鏡下に血腫除去を行う症例が増えています。
症状
内頚動脈狭窄症は、脳に血液を送る内頚動脈が硬化し、狭くなっている状態です。これにより脳梗塞が発生しやすくなります。
検査
3DCT血管造影、MRI、脳血管造影,脳血流シンチ。
治療
脳梗塞などの原因となった中等度以上の狭窄や無症状でも高度狭窄がある場合には手術を行います。主な手術方法は、
頚動脈内膜剝離術(頚部を切開し厚くなった頚動脈の内膜を剥離切除する)、頚動脈ステント留置術(部分麻酔下で
血管内治療)があります。当院では内膜剝離術は脳神経外科が、ステント留置術は脳神経内科が担当します。両方の
診療科で合同カンファレンスを行い、症例ごとに全身状態、年齢、病態、合併症等を考慮し、どちらの手術が有効で
安全か判断します。
症状
頭部外傷は赤ちゃんからお年寄りまで、交通事故や転落・スポーツなど身近なところで起こります。かすり傷から命 の危険を伴う重症まで様々であり、緊急の対応が必要なことがあります。頭皮の切り傷やたんこぶ(皮下血腫)が ひどくても頭の中はどうもないこともあれば、見た目がどうもなくても頭の中に出血していることもあります。頭痛 や呕気・嘔吐、手足の麻痺、意識障害、健忘など症状は多岐にわたります。
検査
頭部レントゲン、CT、MRI。
治療
脳は周りを頭蓋骨で囲まれ保護されていますが、頭に強い力がかかると傷ついてしまいます(一次脳損傷)。
傷ついた脳は、出血や腫れを起こし、頭蓋骨で逃げ場のない周囲の脳に傷を広げてしまいます(二次脳損傷)。頭部
外傷の治療は、この二次脳損傷をいかに防ぐかが重要です。頭部外傷に伴う頭の中の出血(特に急性硬膜下血腫)
に対して緊急開頭手術のみならず、救急外来での緊急穿頭術を行い、迅速に救命・神経機能の温存、予後の改善を
目指しています。
症状
頭を打った後、3週間から2ヶ月後に脳と骨の内側(くも膜と硬膜の間)に血液が貯留して、脳を圧迫して様々な症状 を引き起こします。症状は患者さんによって様々ですが、頭痛、記憶障害、活気がない、認知症のような症状、手足 の動きが悪い、歩行障害、尿失禁などです。認知症やうつ病などと似ている症状もありますが、いずれも慢性硬膜下 血腫による症状であれば、治療をすることで改善する可能性があります。
検査
ほとんどの場合がCTで診断可能です。
治療
血腫が少なく、症状がない場合は自然に改善することもあります。止血剤や、血腫の縮小を促す漢方の薬による治療
を行う事もあります。しかし基本的には手術を行います。手術は局所麻酔で頭蓋骨に小さな穴をあけ、そこから
チューブを入れて中の血液を外に出します。手術は15~30分程度で終了し、多くの方は5日以内に退院できます。
実績
図1.入院患者内訳

図2.脳動脈瘤根治術 手術件数の推移

図3.血腫除去手術 手術件数の推移

図4.脳血管障害入院患者内訳

図5.頭部外傷患者内訳
