診療トピックス
急性冠症候群治療の質を高める多職種連携
- 2026.6.2 | 循環器内科
「急性冠症候群(ACS)」の急性期治療から維持期の外来に繋ぐまで、多職種連携による治療の質を高めるためのアプローチについて、循環器内科、理学療法士、管理栄養士からそれぞれの役割を解説します。
当院の急性冠症候群(ACS)に対する連携 循環器内科 医師 髙江 将史
急性冠症候群(ACS)とは
冠動脈プラークの破綻に伴う血栓形成により、冠動脈閉塞をきたして心筋が虚血・壊死に至る疾患です(図1)。
ACSでは脂質成分に富んだ壊死性コアと薄い線維性被膜からなる脆弱なプラークが原因となります。動脈硬化のリスクとして高血圧症、糖尿病、脂質異常症、喫煙などがあります。
ACSは労作性狭心症を生じない程度の軽度狭窄の病変から生じることが多いことが分かっており、リスク因子のある方には早期から積極的な介入を行うことが重要です。
(図1)
当院では年間約600例の経皮的冠動脈形成術(PCI)を行っています。一般的には待機的PCI:3割、緊急PCI:7割の比率が多いと言われていますが、当院は緊急PCIが約半数とACS症例が多いことが特徴です。ACSの中でもST上昇型心筋梗塞(STEMI)では早期診断、早期再灌流が重要であり、病院到着から再灌流まで90分以内が目標となります。
そのため当院では、救急外来/カテーテル検査室スタッフが協力して、24時間365日早期再灌流ができる体制を整えています。
また、早期再灌流が達成された症例では、早期離床・リハビリテーション介入が推奨されており、当院でも積極的にリハビリを行っています。入院中に疾患・内服・運動・栄養・禁煙などの幅広い指導を行うことが重要であり、看護師・薬剤師・理学療法士・栄養師・検査技師など多職種連携で治療・指導にあたっています。
ADL低下した症例では近隣の病院の先生方に回復期リハビリを継続していただきき、ACS患者さんの予後改善を図っています。
今後ともACS患者さんによりよい医療を提供できるように、多職種連携・地域連携を行っていきたいと考えています。
ACSにおける心臓リハビリテーションと理学療法士の役割 理学療法士 心臓リハビリテーション指導士 髙村 雅直
今回は、ACSにおける心臓リハビリテーション(以下:心リハ)と理学療法士(以下:PT)の役割についてご紹介します。ACSの治療パスウェイはACS発症、救急搬送後に急性期治療として、PCI/CABG/メカニカルサポート/薬物療法を実施し状態を鑑みつつ、心リハの介入が行われます。
安全かつ効果的な運動処方算出方法=CPX
心リハは安全かつ効果的に実施することが前提です。そのためにはCPX(心肺運動負荷試験)を行い、適正な負荷設定が必要となります。
• CPX(心肺運動負荷試験)とは
呼気ガス分析器、負荷心電計、運動負荷自動血圧計、負荷装置を用いて運動中の呼吸・循環・代謝応答を同時に評価する包括的運動負荷検査です。
主に心臓、肺機能、骨格筋を中心に、末梢循環・自律神経系を統合的に評価可能であり、単なる運動耐容能評価ではなく、「運動制限因子の鑑別」が最大の特徴です。
急性冠症候群におけるPTの役割と実践的なアプローチ
1.運動療法の中心的役割:EBMに基づく運動処方の設計・実施・安全管理
患者属性をもとに個別の運動療法を作成(CPXから得られたデータをもとに運動様式や回数の設定)
2.連続的な介入:急性期の早期離床から、回復期前期の機能向上、回復期後期や生活期の習慣化体制の支援
自施設のみで完結ではなく、継続的な心リハ施設の提案と紹介
3.多職種連携のハブ:患者の身体機能を最も詳細に把握し、医師・看護師等の情報共有
心リハ中の身体レスポンスおよび心理的因子を把握し、転帰設定に向けた調整管理
心リハにおけるPTの役割は単なる運動療法のみではなく、治療の一環としての包括的な管理と再発是正・QOL向上において重要な位置づけとして認識されています。
管理栄養士の関わり 栄養課 管理栄養士 緒方 玲佳
管理栄養士は、入院中の栄養管理や退院前の栄養指導、連携先に栄養情報の提供を行います。外来においても栄養指導を実施し、長期的なフォローが必要な方には継続して栄養指導を行っています。
急性期の対応としては、絶食の解除後経口摂取を再開します。その後、患者さんの体格やADL、リハビリの状況などに合わせてエネルギー量などの調整を行いながら、急性期の栄養管理を実施します。
回復期・退院調整の段階には栄養指導を計画します。地中海食とDASH食はどちらもガイドライン上で推奨されている食事パターンですが、日本人の食事内容と異なる部分が多く、実施しづらいという面もあります。そのため、日本食パターンを元にThe Japan Dietが作成されました。実際の退院前の栄養指導では、患者さんの生活様式に合わせた再発予防のための食事パターンについて説明します。
急性冠症候群再発予防のための食事
共通点:果物・野菜・豆類・全粒穀物を豊富に含み、精製糖類・脂質(特に飽和脂肪酸)・食塩が少ない食事
急性期における早期栄養介入も大切ですが、退院後の心臓リハビリテーションなどに合わせた長期的・多職種的な支援が重要です。当院でも栄養指導を実施していますが、食事療法の継続的なフォローをお願いします。
